構造計算の実務 公開日:2026年6月12日 更新日:2026年7月22日

許容応力度計算とは?構造計算ルートの全体像をやさしく解説

許容応力度計算とは?構造計算ルートの全体像をやさしく解説

許容応力度計算は、日本の構造設計の最も基本となる計算方法です。「部材に生じる応力度が、材料の許容応力度以下であることを確かめる」というシンプルな考え方ですが、構造計算ルートとの関係が初学者にはわかりにくいところです。この記事で全体像を整理しましょう。

許容応力度計算の基本的な考え方

建物に荷重(固定荷重・積載荷重・積雪・風・地震など)が作用すると、柱や梁の各部材に応力が生じます。許容応力度計算では、部材の各断面について次の関係を確認します。

生じる応力度 σ ≦ 許容応力度 f 応力度=応力を断面性能(断面積・断面係数など)で割った単位面積あたりの力。許容応力度=材料の基準強度に安全率を考慮した値。

許容応力度には長期(常時の荷重に対するもの)と短期(地震や台風など稀にしか起きない荷重に対するもの)があり、それぞれの荷重の組み合わせに対して検定します。

一次設計と二次設計

現行の耐震設計は、2段階の目標を持っています。

  • 一次設計:中規模(稀に発生する)の地震に対して、損傷しないこと。→ 許容応力度計算で確認。
  • 二次設計:大規模(極めて稀に発生する)の地震に対して、損傷はしても倒壊・崩壊しないこと。→ 層間変形角・剛性率・偏心率の確認や保有水平耐力計算で確認。
中規模の地震 稀に発生(震度5強程度) 損傷させない 一次設計 許容応力度計算で確認 大規模の地震 極めて稀(震度6強〜7) 倒壊させない 二次設計 層間変形角・保有耐力等

図:2段階の耐震設計目標。許容応力度計算は一次設計の中心的手法

POINT

「中地震では無傷、大地震では壊れても人命は守る」というのが日本の耐震設計の基本思想です。許容応力度計算は一次設計の中心的な手法にあたります。

構造計算ルート1・2・3の違い

建物の規模や形状に応じて、どこまでの計算を行うかが「ルート」として整理されています。

ルート主な対象計算内容のイメージ
ルート1小規模な建物(例:鉄骨造の小規模建築、壁量の多いRC造など)許容応力度計算+壁量・部材規定などの仕様的な確認。二次設計の詳細計算は省略できる。
ルート2中規模・整形な建物(高さ31m以下が目安)許容応力度計算に加え、層間変形角・剛性率・偏心率を確認し、バランスのよさを担保する。
ルート3大規模・不整形な建物許容応力度計算に加え、保有水平耐力計算で大地震時の終局的な耐力を直接確認する。

ルートの数字が大きいほど高度な計算を行う、という関係です。さらに高さ60mを超える超高層建築物などでは、時刻歴応答解析による検証と大臣認定が必要になります。

剛性率・偏心率とは

  • 剛性率:高さ方向の剛性のバランス。特定の階だけ柔らかい(例:ピロティ階)と、その階に変形・損傷が集中するため、各階の剛性率が6/10以上であることを確認する。
  • 偏心率:平面的な剛性のバランス。重心と剛心がずれていると地震時に建物がねじれるため、偏心率が15/100以下であることを確認する。

計算の実務的な流れ

  1. 荷重の設定:固定荷重・積載荷重を拾い、地震力(Ai分布による層せん断力)・風荷重などを算定する。
  2. 応力解析:架構モデルに荷重を載荷し、各部材の応力(曲げ・せん断・軸力)を求める。現在は一貫構造計算プログラムを使うのが一般的。
  3. 断面検定:各部材の応力度が許容応力度以下であることを確認する。
  4. 二次設計の確認:ルートに応じて層間変形角(原則1/200以内)、剛性率、偏心率、保有水平耐力などを確認する。
あわせて確認

断面検定で使う断面性能の基礎は「断面二次モーメントとは?」、変形の検討は「梁のたわみの計算方法」で解説しています。

実務のワンポイント

ルート判定は一貫構造計算ソフトが自動で出しますが、私は必ず手元でも高さ・階数・スパンの入力条件を確認します。入力ミスで本来ルート2相当の建物がルート1判定のまま流れてしまうと、層間変形角や偏心率のチェックが丸ごと抜け落ちるため、判定結果を鵜呑みにしないことが検図での基本動作です。

構造計算ルートの選び方

ルート1ルート2ルート3
適用できる規模小規模(高さ・階数・スパンに制限)高さ31m以下制限なし(高さ60m以下)
一次設計
層間変形角不要1/200以内1/200以内
剛性率・偏心率不要剛性率0.6以上
偏心率0.15以下
不要(Fesで割増して評価)
保有水平耐力計算不要不要必要
計算の手間
設計の自由度低い(形が制約される)中程度高い
構造適判原則不要必要な場合がある必要

ルート選択の実務的な考え方はシンプルです。①規模が小さく整った形ならルート1、②中規模で剛性率・偏心率が満たせるならルート2、③形が不整形または規模が大きいならルート3。ルート番号が大きいほど計算は大変ですが、そのぶん建物の形の自由度が上がるという関係になっています。

一次設計と二次設計が守るもの

一次設計(許容応力度計算)二次設計(保有水平耐力等)
想定する地震震度5強程度(数十年に一度)震度6強〜7(数百年に一度)
ベースシア係数C₀ ≧ 0.2C₀ ≧ 1.0
目標損傷させない倒壊させない
材料の扱い弾性範囲(許容応力度以内)塑性を許容(材料強度まで使う)
地震後の状態そのまま使える損傷するが人命は守られる

この2段階が新耐震基準の骨格です。「小さい地震では傷まない、大きい地震では壊れても倒れない」——建物の性能をこの2つの水準で担保するという考え方が、1981年に導入されました。

「許容応力度計算をした」=安全とは限らない

許容応力度計算(一次設計)だけを行った建物は、震度5強程度までしか検証されていません。大地震に対する検証は、ルート1では規模の制限と仕様規定で、ルート2では剛性率・偏心率で、ルート3では保有水平耐力計算で担保しています。
つまり「許容応力度計算をしたから安心」ではなく、「どのルートで、大地震に対する検証をどう行ったか」まで見る必要があります。
とくに既存建物の評価では、当時どのルートで設計されたか、剛性率・偏心率がどうだったかを確認することが、耐震性の判断の出発点になります。旧耐震(1981年5月以前)の建物は、そもそもこの二次設計の枠組み自体が存在しなかった時代のものです。

よくある質問

Q1. 構造計算ルート1・2・3はどう選ぶのですか?

建物の規模と形状で決まります。規模が小さく整った形ならルート1、高さ31m以下で剛性率0.6以上・偏心率0.15以下を満たせるならルート2、形が不整形または規模が大きい場合はルート3(保有水平耐力計算)です。ルート番号が大きいほど計算は大変ですが、建物の形の自由度が上がります。

Q2. 一次設計と二次設計の違いは何ですか?

想定する地震の大きさと目標が違います。一次設計(許容応力度計算)は震度5強程度の中地震に対して「損傷させない」ことを、二次設計は震度6強〜7の大地震に対して「倒壊させない」ことを目標とします。ベースシア係数はそれぞれC₀≧0.2、C₀≧1.0です。

Q3. 剛性率と偏心率とは何ですか?

建物のバランスを表す指標です。剛性率は上下階の硬さのばらつきを示し、0.6以上が求められます。値が小さいと特定の階だけ柔らかく、そこに変形が集中します。偏心率は平面的な重心と剛心のずれを示し、0.15以下が求められます。大きいと地震時に建物がねじれて壊れます。

まとめ

  • 許容応力度計算は「生じる応力度 ≦ 許容応力度」を確認する、一次設計の基本手法。
  • 耐震設計は「中地震で損傷しない(一次設計)」「大地震で倒壊しない(二次設計)」の2段構え。
  • 建物の規模・形状に応じてルート1〜3を選択し、ルート3では保有水平耐力計算まで行う。

※本記事は学習用の概説です。実際の設計にあたっては建築基準法・同施行令・告示および最新の技術基準解説書を必ず確認してください。