構造計算の実務 公開日:2026年6月12日 更新日:2026年7月22日

層間変形角・剛性率・偏心率とは?ルート2の検討項目をわかりやすく解説

層間変形角・剛性率・偏心率とは?ルート2の検討項目をわかりやすく解説

地震に強い建物の条件は、強さだけではありません。「変形しすぎない」「上下方向に偏らない」「平面的にねじれない」こと。これを数値で確かめるのが層間変形角・剛性率・偏心率で、構造計算ルート2の中心的な検討項目です。

層間変形角:各階がどれだけ傾くか

地震時に、ある階の床と上の階の床がどれだけ水平にずれるか(層間変位 δ)を、階高 h で割った値です。

層間変形角 = δ / h ≦ 1/200 δ:層間変位(一次設計用地震力による弾性変形)/ h:階高。帳壁・内外装材に著しい損傷のおそれがない場合は 1/120 まで緩和可。
δ(層間変位) h(階高) δ/h ≦ 1/200

図:層間変形角は「階の傾き」。大きいと仕上げ材の損傷や帳壁の脱落につながる

変形を制限する目的は、骨組みより先に外壁・サッシ・間仕切りなどの二次部材が壊れるのを防ぐことです。階高3mなら、許される層間変位は 3000/200 = 15mm。意外と小さいことがわかります。

剛性率:高さ方向のバランス(6/10以上)

各階の硬さ(層間変形角の逆数)が、全階の平均に対してどの程度かを表す指標です。

剛性率 Rs = 各階の剛性 / 全階の平均剛性 ≧ 6/10

特定の階だけ柔らかいと、地震のエネルギーがその階に集中して層崩壊を起こします。典型例が、1階だけ壁のないピロティ形式(駐車場マンションなど)。1995年阪神・淡路大震災では1階が潰れる被害が多発しました。剛性率6/10を下回る場合は、ルート3(保有水平耐力計算)で安全性を直接確認する必要があります。

偏心率:平面のバランス(15/100以下)

建物の重心(重さの中心)剛心(硬さの中心)のずれを表す指標です。

偏心率 Re = 偏心距離 e / 弾力半径 ≦ 15/100 e:重心と剛心の距離。剛心=水平力に抵抗する要素(壁・ブレース)の配置の中心。

地震力は重心に作用し、建物は剛心を中心に回転しようとします。両者がずれていると建物はねじれて、剛心から遠い側の柱・壁に変形が集中します。ブレースや耐震壁を片側に寄せて配置すると偏心が大きくなるため、平面的にバランスよく配置することが大切です。

POINT(試験頻出)
  • 数値の暗記:層間変形角 1/200(緩和1/120)、剛性率 6/10以上、偏心率 15/100以下
  • 剛性率は「上下方向のバランス」、偏心率は「平面方向のバランス」。
  • 剛性率・偏心率を満たせない場合は、ルート3で保有水平耐力を確認すればよい(Fes係数で割増)。
あわせて確認

これらの検討がどのルートで必要になるかは「許容応力度計算とは?構造計算ルートの全体像」、地震力の求め方は「地震力の計算方法」をどうぞ。

実務のワンポイント

意匠変更で耐震壁や柱の位置がずれると、偏心率は思った以上にあっさり基準を超えます。私は計画段階から重心・剛心の位置を都度プロットしておき、壁の配置変更が出るたびに偏心率への影響を先に見積もってから構造計算に戻すようにしています。

偏心率:重心と剛心のずれ(図解)

偏心率は言葉だけでは理解しにくいので、平面図でイメージをつかみましょう。

重心と剛心がずれるとねじれる バランスが良い 重心=剛心(偏心なし) 壁が両側にある → ねじれずに平行移動 偏心している 偏心距離 e 重心(橙)と剛心(赤)がずれる 壁が左に偏っている → 剛心を軸にねじれる
地震力は重心に作用し、建物は剛心を中心に回転しようとする。両者が離れているほどねじれが大きくなり、剛心から遠い柱に変形が集中する。

重心は重さの中心、剛心は硬さの中心です。耐震壁やブレースが片側に寄っていると剛心もそちらに寄り、地震力が作用する重心との間に距離(偏心距離 e)が生じます。この距離が大きいほど、ねじれモーメントが大きくなります。

構造計算ルートとの関係

これらの検討項目が、構造計算のどのルートで必要になるかを整理しておきましょう。

ルート主な検討内容層間変形角剛性率・偏心率保有水平耐力
ルート1規模・壁量などの条件を満たす小規模建物不要不要不要
ルート2許容応力度計算+バランスの確認必要必要不要
ルート3保有水平耐力計算必要Fes係数として反映必要

ルート2で剛性率6/10・偏心率15/100を満たせない場合、そのままでは設計できません。対応は2つあり、①壁やブレースの配置を見直して基準を満たすか、②ルート3に移行して保有水平耐力で確認するかです。ルート3では、バランスの悪さをFes係数(形状係数)として必要保有水平耐力の割増しに反映させるため、バランスが悪いほど大きな耐力が要求される仕組みになっています。

設計での実践的な対処

偏心率が超過したときの改善は、剛心を重心に近づけることです。具体的には、壁の少ない側に耐震壁やブレースを追加する、壁の多い側の壁を減らす(またはスリットを入れて構造的に切り離す)、といった調整を行います。平面計画の初期段階で耐震要素の配置を検討しておくと、後戻りが少なくなります。

よくある質問

Q1. 層間変形角の制限が1/200なのはなぜですか?

骨組みそのものではなく、外壁・サッシ・間仕切りなどの二次部材を守るための制限だからです。中規模の地震(一次設計レベル)で建物が大きく変形すると、これらの仕上げ材が先に破損し、脱落すれば人身被害につながります。1/200は、一般的な仕上げ材が追従できる変形の目安です。変形に追従できる納まりであることを確認できれば、1/120まで緩和できます。

Q2. ピロティ形式の建物はなぜ危険なのですか?

1階だけ壁がなく柔らかいため、地震のエネルギーがその階に集中するからです。上階は壁が多く硬いのでほとんど変形せず、柔らかい1階だけが大きく変形して層崩壊に至ります。1995年の阪神・淡路大震災では、1階を駐車場としたピロティ形式のマンションで1階だけが潰れる被害が多発しました。剛性率の規定は、こうした特定階への変形集中を防ぐためのものです。

Q3. 剛心はどうやって求めるのですか?

各耐震要素(柱・耐震壁・ブレース)の水平剛性と、その位置座標から算出します。具体的には、各要素の剛性を重みとした位置の加重平均をとります。式で表すと、X方向の剛心位置は「Σ(各要素の剛性×その要素のX座標) ÷ Σ(各要素の剛性)」となります。実務では一貫構造計算プログラムが自動計算しますが、壁の位置を大きく変更した際は、剛心がどちらに動くかを感覚的に把握しておくと設計判断が速くなります。

まとめ

  • 層間変形角(δ/h≦1/200)は二次部材を守るための変形制限。
  • 剛性率(≧6/10)は「柔らかい階」を作らないための高さ方向のバランス指標。ピロティに注意。
  • 偏心率(≦15/100)は「ねじれ」を防ぐための平面バランス指標。壁・ブレースは偏りなく配置する。