せん断力図(Q図)と曲げモーメント図(M図)の描き方
Q図・M図は、梁のどこに・どれだけの応力が生じているかをひと目で示すグラフです。最大曲げモーメントの位置と大きさがわかれば断面検定ができるため、構造計算の出発点であり、建築士試験でも毎年のように出題される最重要テーマです。
せん断力Q・曲げモーメントMの意味を押さえたうえで、この記事では「描き方の手順」と「代表パターン」を身につけましょう。
描き方の基本手順(5ステップ)
- 反力を求める:力のつり合い(ΣX=0、ΣY=0、ΣM=0)から支点反力を計算する(詳しくは「反力の求め方」へ)。
- 左端から順に切断して考える:着目点の左側にある力を合計すると、その点のQとMが求まる。
- Q図を描く:集中荷重の位置で段差、等分布荷重の区間では直線勾配になる。
- M図を描く:Q図の面積を積み上げる。集中荷重なら折れ線、等分布なら2次曲線。
- 検算する:ピンやローラーの端部で M=0 に戻るか、Q=0 の位置で M が最大になっているかを確認。
例1:単純梁+中央集中荷重 P
最も基本のパターンです。反力は左右対称なので各 P/2。左から切断していくと、Qは左支点でP/2に跳ね上がり、中央の荷重点で −P/2 へ段差、右支点でゼロに戻ります。Mは左端ゼロから直線的に増え、中央で最大 PL/4 になります。
図:単純梁+中央集中荷重のQ図・M図。Qが0をよぎる中央でMが最大になる
例2:単純梁+等分布荷重 w
反力は各 wL/2。Qは左端の +wL/2 から一定の勾配(−w)の直線で減っていき、中央でゼロ、右端で −wL/2 になります。Mは2次曲線(放物線)を描き、Q=0となる中央で最大 wL²/8 です。
覚えておくべき代表値
| 梁と荷重 | 最大曲げモーメント | 位置 |
|---|---|---|
| 単純梁+中央集中荷重 P | PL / 4 | 中央 |
| 単純梁+等分布荷重 w | wL² / 8 | 中央 |
| 片持ち梁+先端集中荷重 P | PL | 固定端 |
| 片持ち梁+等分布荷重 w | wL² / 2 | 固定端 |
片持ち梁は固定端で最大となる点が単純梁との大きな違いです。また片持ち梁のM図は上側引張(上に凸の変形)なので、梁の上側に描かれます。
w・Q・M の関係:微分と積分でつながっている
3つの量には次の関係があります。
- 等分布荷重の区間:Qは1次(直線)、Mは2次(放物線)。
- 荷重のない区間:Qは一定、Mは直線。
- Q=0 の位置で M は最大(または最小):Mの傾きがゼロになる点だから。
- ピン・ローラーの端部では必ず M=0。
- 集中荷重の位置:Q図は段差、M図は折れ点。
- モーメント荷重の位置:M図だけが段差になる(Q図は変化なし)。
- Q図が0をよぎる位置に、M図の山(最大値)がくる。
求めた最大Mから縁応力度を出すのが「断面係数とは?曲げ応力度の計算方法」、Q・Mそのものの意味は「応力とは?」で解説しています。
一貫計算ソフトが出すQ・M図をそのまま信じないのが私のやり方です。検図でまず見るのは小梁が取り付く位置で、そこにQ図の段差が正しく出ているか。荷重の入力位置が数十mmずれているだけでも段差とM図の山が一緒にずれるのに、印刷された図だけを見ていると案外気づきません。
w・Q・M の関係:微分と積分でつながる
荷重w、せん断力Q、曲げモーメントMの3つは、数学的にきれいな関係で結ばれています。この関係を知っていると、図の形が予測でき、検算にも使えます。
w = −dQ/dx (Qの傾き=−w) 逆に見れば、Q図の面積を積み上げるとM図になる
| 荷重の状態 | Q図の形 | M図の形 |
|---|---|---|
| 荷重なしの区間 | 水平(一定) | 直線(一定の傾き) |
| 集中荷重の位置 | 段差(不連続) | 折れ点(傾きが変わる) |
| 等分布荷重の区間 | 直線(傾き −w) | 2次曲線(放物線) |
| モーメント荷重の位置 | 変化なし | 段差(不連続) |
QはMの傾きなので、Q=0の点はMの傾きがゼロ=Mが極値(最大または最小)になります。これは微分で最大値を求めるのと同じ理屈です。この関係を知っていれば、M図を描かなくても「Q図がゼロを横切る位置」を見るだけで最大曲げモーメントの位置がわかります。実務でも試験でも使える、きわめて実用的な性質です。
ラーメン構造のM図の描き方
梁だけでなく、柱と梁が剛接合されたラーメン構造でもM図を描きます。基本は梁と同じですが、いくつか押さえるべき約束があります。
- M図は引張側に描く:日本の建築構造では、曲げモーメントによって引張が生じる側にM図を描くのが一般的です。梁が下に凸に曲がれば下側、柱が右に倒れようとすれば左側、という具合です。
- 節点でモーメントがつり合う:柱と梁が交わる節点では、集まる部材の材端モーメントの合計がゼロになります。これが検算の要になります。
- 水平力を受けると柱に大きなM:地震力のような水平力を受けると、柱の上下端で曲げモーメントが最大になり、中央付近でゼロ(反曲点)になります。
水平力を受けたラーメンでは、各層の柱の中間付近に反曲点(M=0の点)ができます。この反曲点の位置を仮定して応力を略算する手法がD値法で、コンピュータのない時代から使われてきた実務的な計算法です。現在は一貫計算プログラムが解きますが、応力の分布を感覚的に把握するうえで、この考え方は今も有効です。
よくある質問
Q1. Q図とM図はどちらを先に描くのですか?
必ずQ図が先です。MはQを積分した関係にあるため、Q図の面積を積み上げることでM図が描けます。手順としては、①反力を求める、②Q図を描く、③Q図の面積からM図を描く、という順になります。逆にM図から描こうとすると、どこで最大になるかがわからず手が止まります。
Q2. M図を引張側に描くのはなぜですか?
配筋の位置と直結するためです。RC造では引張が生じる側に主筋を配置する必要があるので、M図が引張側に描かれていれば、図を見るだけで「どこに鉄筋を入れるべきか」が直感的にわかります。梁の端部でM図が上側に出ていれば上端筋を、中央で下側に出ていれば下端筋を増やす、という判断につながります。なお土木分野では圧縮側に描く流儀もあるため、図面を読む際は確認が必要です。
Q3. 片持ち梁のM図はなぜ上側に描かれるのですか?
片持ち梁は先端が下がるように変形するため、上側が引張になるからです。固定端で曲げモーメントが最大となり、上端に引張が生じます。そのため片持ち梁(バルコニーの跳ね出しスラブなど)では、上端筋が主筋になります。単純梁とは引張側が逆になるため、配筋を取り違えると重大な事故につながる部分です。
まとめ
- 手順は「反力 → 左から切断 → Q図 → M図 → 検算」の5ステップ。
- 集中荷重はQ図に段差・M図に折れ点、等分布荷重はQ図が直線・M図が放物線。
- Q=0の位置でMが最大。単純梁の代表値は PL/4 と wL²/8、片持ち梁は PL と wL²/2。