鉄骨造(S造) 公開日:2026年6月14日 更新日:2026年7月22日

H形鋼の幅厚比|フランジ・ウェブの制限値と基準強度

H形鋼の幅厚比|フランジ・ウェブの制限値と基準強度

幅厚比(はばあつひ)とは、板の「幅」と「厚さ」の比のことです。H形鋼の板が薄すぎると局部座屈を起こすため、幅厚比には制限が設けられています。

幅厚比とは

薄くて幅の広い板ほど、圧縮を受けると波打つように座屈しやすくなります。これが局部座屈です。幅厚比は、この座屈のしやすさを表す指標で、大きいほど(板が薄いほど)危険です。

フランジ・ウェブの幅厚比の求め方

フランジ:(B/2) / t2  ウェブ:(H − 2·t2) / t1 B:フランジ幅/t2:フランジ厚/H:せい/t1:ウェブ厚

フランジは中央から外に張り出した板(片側)の幅厚比、ウェブは上下フランジ間の高さに対する幅厚比で評価します。

制限値と基準強度Fの関係

幅厚比の制限値は、鋼材の基準強度Fが大きいほど厳しく(小さく)なります。強い鋼ほど高い応力が働き、局部座屈しやすくなるためで、制限値は√(235/F)に比例して調整されます。

制限値 ∝ √(235 / F) F=235(SN400等)を基準に、F=325(SN490等)では √(235/325)≒0.85 倍に厳しくなる

部材ランク(FA〜FD)

鋼構造の規準では、幅厚比などに応じて部材をFA・FB・FC・FDの4ランクに分類します。FAが最も塑性変形能力が高く(幅厚比が小さい)、FDに向かうほど早く局部座屈します。これは保有水平耐力計算で部材の粘り強さを評価する際に使われます。

ランク幅厚比変形能力
FA小さい(厚い板)高い(よく粘る)
FB・FC中間中間
FD大きい(薄い板)低い(早く座屈)

参考:F=235の場合のFAの目安は、フランジ(B/2)/t2 ≈ 9、ウェブ(H−2t2)/t1 ≈ 60程度(正確な値は規準で確認)。

あわせて読みたい

板の役割は「フランジとウェブ」、座屈は「座屈とは?」、規準は「鋼構造設計規準」をどうぞ。

よくある質問

Q1. なぜ幅厚比を制限するのですか?

板要素が幅に対して薄すぎると、圧縮を受けたときに材料が降伏する前に局部座屈(板がしわのように波打つ現象)を起こしてしまいます。局部座屈が先行すると、断面が本来の耐力や粘り(靭性)を発揮できません。幅厚比を制限するのは、この局部座屈を抑えて所定の性能を確保するためです。

Q2. 基準強度Fが高い鋼材ほど幅厚比の制限が厳しくなるのはなぜですか?

強度の高い鋼材ほど高い応力まで使うため、同じ板厚でも局部座屈を起こしやすくなります。そのため制限値は √(235/F) などFを含む形で与えられ、Fが大きいほど許容される幅厚比は小さく(=より厚い板が必要)なります。

実務のワンポイント

保有耐力の計算書をチェックしていて引っかかるのは、板厚をわずかに変えただけで部材ランクがFBからFCに落ち、Ds値の見直しが必要になるケースです。幅厚比は数値そのものより、ランクの境界をまたいでいないかを確認する視点で見るようにしています。

幅厚比の測り方(図解)

フランジとウェブでは、幅として取る寸法が異なります。ここを取り違えると計算値が大きくずれるので、図で確認しておきましょう。

H形鋼の幅厚比の測り方 B/2(片側の張り出し) t2(フランジ厚) H−2t2 t1(ウェブ厚) フランジは (B/2)÷t2、ウェブは (H−2t2)÷t1 で計算する
フランジの幅は全幅Bではなく片側の張り出し幅B/2を用いる。ウェブの幅は上下フランジの内側どうしの距離(H−2t2)を用いる。

計算例:H-400×200×8×13(SN400・F=235)

実際の断面で計算してみましょう。使用するのは、梁でよく見るH-400×200×8×13です。

項目計算結果
フランジの幅厚比(B/2) ÷ t2 = (200/2) ÷ 13 = 100 ÷ 13約 7.7
ウェブの幅厚比(H − 2·t2) ÷ t1 = (400 − 26) ÷ 8 = 374 ÷ 8約 46.8

F=235の場合、FAランクの目安はフランジ約9以下、ウェブ約60以下です。この断面はフランジ7.7・ウェブ46.8といずれも下回っているため、FAランク(もっとも粘り強い)に該当します。

同じ断面でも鋼種が変わると判定が変わる

もし同じH-400×200×8×13を、F=325のSN490材で使った場合、制限値は √(235/325) ≒ 0.85倍に厳しくなります。フランジの制限値は約9×0.85≒7.6となり、実際の値7.7がわずかに超えてしまいます。断面が同じでも鋼種を変えると部材ランクが下がることがあるため、材質変更の際は幅厚比の再確認が欠かせません。

部材ランクが設計に与える影響

部材ランク幅厚比変形性能構造特性係数Dsへの影響
FAもっとも小さい(板が厚い)大きな塑性変形に耐えるDsを小さくできる(0.25〜0.3)
FBやや小さいある程度の塑性変形に耐えるやや大きいDs
FCやや大きい塑性変形は限定的大きいDs
FD制限値を超えるほとんど期待できないもっとも大きいDs(0.4〜0.5)

ここが実務で効いてくる核心です。保有水平耐力計算では、建物に必要な耐力を Qun = Ds × Fes × Qud で求めます。Dsが大きいほど必要な耐力が増えるため、部材ランクが低い(FC・FD)と、その分だけ全体の断面を大きくしなければなりません。
つまり「板厚をケチると、かえって全体のコストが上がる」ことがあります。1本の梁の板厚を薄くして数万円節約した結果、建物全体のDsが上がって全部材が大きくなり、数百万円のコスト増になる——これは実際に起こりうる話です。

実務でのチェックポイント

確認すること理由
鋼種を変えたら幅厚比を再確認SN400→SN490にすると基準強度Fが上がり、制限値が厳しくなる
フランジとウェブを別々に判定両方が制限を満たして初めてその部材ランクになる
柱と梁で制限値が違う柱は軸力を受けるため、梁より厳しい制限が課される
角形鋼管は別の基準冷間成形角形鋼管はBCR・BCP・STKRで扱いが異なる
塑性ヒンジを想定する位置大変形が生じる位置ほど高いランクが必要
「強い鋼材ほど制限が厳しい」という逆説

SN490(F=325)はSN400(F=235)より強い鋼材ですが、幅厚比の制限値はより厳しくなります。直感に反するようですが、理由を考えると納得できます。
局部座屈は「板が材料の強度に達する前にへこんでしまう」現象です。材料の強度(F)が高いほど、板がその強度に達するまでに大きな応力がかかり、座屈が先に起きやすくなるのです。せっかく強い鋼材を使っても、板が薄ければその強さを使い切れません。
制限値の式に √(235/F) という項が入っているのは、この関係を表しています。F=325なら √(235/325) ≒ 0.85 となり、制限値が15%厳しくなる計算です。材料を強くしたら、それに見合う板厚も必要——これが幅厚比の本質です。

まとめ

  • 幅厚比は板の幅÷厚さ。大きい(薄い)ほど局部座屈しやすい。
  • フランジは(B/2)/t2、ウェブは(H−2t2)/t1で求める。
  • 制限値は基準強度Fが大きいほど厳しく(√(235/F)倍)。部材ランクFA〜FDで評価する。